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トリック・オア・トリート 


「トリック・オア・トリート! クリフト!」
「姫さま…?」
「だーかーら! トリック・オア・トリート!」
「ああ…はい、お菓子ですよ」
クリフトがカゴの中から、綺麗な包装紙で包まれたキャンディを一つ取り出すと、微笑みながらアリーナに手渡す。
カゴの中のお菓子は、これからサランの教会で子供達の配るものだが、一つくらいなくなっても構わないだろう。
ハロウィンは宗教イベントではあるが、古くからの因習を重んじるサントハイムの城内では一切行われない。
旅の間に初めてハロウィンを体験したアリーナが、とても楽しそうにしていたのが心に残っていた。

「ありがとう!」
アリーナは無邪気な笑顔でそれを受け取ると、くるりと包装をはいで中のキャンディをほおばった。
「これからサランへ行くの?」
「ええ、教会のお手伝いをして参ります。帰って参りましたら、パンプキンパイを一緒に食べましょうね」
「本当?!」
満面の笑みで喜ばれると、ついつられて笑みが浮かんでしまう。
「ね、クリフトも言って」
「え?」
「ほら、トリック・オア・トリート」
「ああ…」

アリーナは何かを隠すように自分の手を背に回し、ニッコリ笑う。
アリーナもお菓子を用意しているのだろうか?クリフトの頭に一瞬「アリーナのお菓子=パデキア味のケーキ」が浮かんだが、それすら彼女の手作りなら愛おしい。
「トリック・オア・トリート」
彼女の視線に合わせる為にクリフトが少しかがんで微笑むと、アリーナが太陽の笑みのまま彼の首根っこをグイと引っ張って、そのままの勢いで口付けた。
「?!」
状況がつかめず、ただ狼狽えるばかりのクリフトの唇を割って丸いものが押し込められる。
半分放心状態のままそれを口内に受け取ると、アリーナは軽いステップで、口付けたのと同じ勢いで離れた。
一歩離れた所から猫の瞳で彼をうかがう。
唇の周りについたキャンディの解け残りをペロリと舐めて、つややかに光る唇をニッと横にひいた。
「どう?ハロウィンのお菓子は美味しいかしら?」
両手を地に付き四つん這いのまま、あぜんとしたままのクリフトを笑うと、くるりときびすを返しマントをなびかせてアリーナは走っていった。
途中「ひゃあ!」と小さく悲鳴を上げて飛び上がる。
「あ!パンプキンパイ忘れないでよ!」
振り返ってそれだけ言い残すと、颯爽と走り去ってしまった。

「な…」
手のひらのホコリを払ったものの、立ち上がれないままその場に座り込む。
一陣の風の様な出来事は、まるで狐にも騙されたようで…
口の中でとろけるキャンディだけが、現実だと教えてくれる。
「これは、トリック(悪戯)なんですか?トリート(御馳走)なんですか?」
クリフトは甘くため息を吐くと、誰にも聞こえない程小さな声でつぶやいた。



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