ゆっくりと髪を指で梳かれる。 ぞくっとする身体を押さえて、何事もなかったのかのようにその張本人を見上げた。 「いいな、新ちゃんの髪はまっすぐで」 「まっすぐなら、西園寺さんの方が綺麗なストレートですよ」 「うん…でも、リーダーは髪を触らせてくれないもん」 「あ…それはそうでしょうね」 僕が憧れるまっすぐ志を持つあの人は、きっとこんなゆるゆるとした時間に身を置く事は許さないのだと思う。 だけど、僕はあの厳しい世界も、この緩やかな時間も大好きで。 「まっすぐなら三つ編みもできるよね」 そう言いながら彼女は、僕の短い髪をを編み始める。 「三つ編みなら杉田さんがいるじゃないですか」 「杉ちゃんは三つ編みほどくと怒るもん」 ボブショートの髪ではあっという間に三つ編みは網上がり、短いお下げを満足そうに眺めるとすぐに指を差し入れてほどいてしまう。 「もう、気が済みましたか?」 「新ちゃんだけなんだよ」 「え?」 「髪の毛触らせてくれるの!」 僕の後ろで彼女がくすくすと笑い出すのが聞こえる。 軽くクセのついた髪を、手櫛で梳いて綺麗に整えると、ポンで両手を僕の肩を叩いた。 「はいっ!できあがり!ありがとうね、新ちゃん」 そう言って、彼女はふわふわの髪を揺らして笑う。 彼女は、自分の髪が嫌いだと言う。 クセがあって、短くすると爆発してしまい、長く伸ばすと邪魔になる。 「好きな髪型にできないの」 そうこぼしていたけれど。 僕はそのふわふわの髪にいつも触れてみたくて… 立ち去ろうとした彼女の頭を、優しく撫でる。 一瞬目を開いて驚いた顔をしていたが、ふんわりと笑う彼女の笑顔は格別で。 やっぱり僕は、この緩やかな時間も大好きなんだと思う。 終 田葵がほのぼのドタバタカップルなら、菊ほのはほのぼのぼんやりカップルですよ。 2008.08.11 [戻る] |