敬語×敬語

もし葵ちゃんが敬語ユーザーだったら…の小ネタssです。


「サン…サンっ!」

ディスプレイの中の数字だけを見つけ、ただひたすらキーボードを叩いていた僕の肩に、急に軽いものが当たりビックリして振り返った。
僕の挙動に驚いた顔をして、両手を胸に抱いて立っていたのは、神田さんだった。
「あ…神田さん。どうかされました?」
「ごめんなさい。何度もお呼びしたのですが、気が付かなかったから…」
「すみません、コレに集中してると何も聞こえなくて…」
僕は、ディスプレイを指差して答えると、ほんのり微笑んで答えた。
「団長サンが、明日の午後1時に団室に集合するようにとおっしゃっていましたよ」
明日は集まる予定はなかったはずだから、急に決まったのだろう。
「ありがとうございます」そう答えると、忘れないようにポストイットに書き込んで、ディスプレイに貼付けた。

「それで…はじめサン…」
「…………………はい」
何か言いかけて、神田さんが口をキュッと結ぶ。再び口を開いては、何も言葉を発せずに、胸の前で両手を握った。
「あの…私、何かおかしいことしてますか?」
「はぁ?」
「はじめサンが、返事を返してくださるまでに、とてもタイムラグがあるように思えたものですから…
何か失礼なコトをしていたら、ごめんなさい」
胸の前の両手はそのままに、しゅんとうつむいた。
長い間、外国で過ごしていた神田さんは、どうしても日本の習慣にうといらしい。

「いえ…違うんです!」
僕はあわてて首をブンブンと横に振った。
「ただ…自分は女の子に下の名前で呼ばれるのに慣れてなくて…」
「はじめサンじゃ…だめですか?」
「いや…いいんですけど…」
「では、はじめクン?」
「いや…もう、何でもいいですよ、本当に」
「じゃあ、はじめチャン」
「え………?」
「かわいいじゃないですか、はじめチャン!これからは、こうお呼びしますね」
結び合わせていた手を開いて、ポンと合わせて笑う。
その可愛らしさにもう、何も反攻はできない。

その日以降、「はじめチャン」と呼ぶ葵と困った顔で返事する田中。
それをニヤニヤと遠目から見物する団員&チア達の構図が成り立っていたりするのだけど、それはまた別の話。


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おまけ、いつもの二人でチャン付け騒動

「はーじーめーくーん!」
「そんな大きな声で呼ばないで下さい! 恥ずかしいじゃないですか!」
「じゃあ、はじめちゃん!」
「ちゃん付けは勘弁して下さい!」
「ほーら、ここで決め台詞『ジッチャンのなにかけて!』」
「それ、別のマンガだから!」
「そうなの? アンナちゃんが、日本の伝統的な「一ちゃん」の決め台詞だって言ってたよ」
「まーたアンナさんは変な事を教えましたねっ!」
「で、おじいさんに『何を掛ける』の? お好み焼きソースとかだったら、美味しそうだよね!」
「何じゃなくて"名"です!
お好み焼きソースって何ですか!!お年寄りを大切に!
もう、意味が分からないなら、口に出さない!」
「えーーー!!はじめちゃんの意地悪〜」
「もーーー!ちゃん付けするなーー!!」

コッチの方がはっちゃけるな、田中。
2008.04.28

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