団長の遣いで田中と2人、夕日町を離れ快速電車に乗っている。 新夕日の駅から、30分も経った頃だろうか、通常でもおしゃべりというワケではないが、あまりにも窓の外を一点集中で睨み付けている、うちの新人が心配になった。 なにしろ、頭の良さと根性以外は箱入りお坊ちゃんの彼だ、急に「電車に酔った」とも言い出しかねない。 「おい…田中。大丈夫か?」 その声にはじかれたように顔を上げ、まだぼんやりした目つきで「あ…先輩…」と返してくる。 「電車の速度を計算していたんです」 「は?」 「さっきホームで電車を待ってた時、無風だったでしょう? 雨が毎秒8.0mの速度で降ってくるとしたら…」 「はあ…?」 窓ガラスに付いた雨の軌跡を指差した。 「角度は30度くらいだから…」 何が楽しいのか、嬉々とした表情で、曇った窓ガラスに指で数字を並べ始める。 「田中」 「はい」 「殴ってもいいか?」 答えが返ってくる前に、俺は坊主頭をペシリと叩いてやった。 「ちょっ…何するんですか!暴力反対!」 そうか?俺は、その天然秀才ぷりも、ある意味暴力に値すると思うけどな。 ずれたハチマキと眼鏡をずり上げて、田中がなおも反論してくる。 「団長に言いつけますよ!」 いや、同じ状況に置かれたら、団長も小突くと思うぞ俺は。 まだギャンギャンと騒いでいる田中を尻目に、腕を組むと目をつぶってドアにもたれた。 だから頭の良いヤツは嫌いだ。 高校時代の半分実話です。修学旅行の新幹線の中で、友達がいきなり計算し始めた事がありました。 私自身は物理を取ってなかったので、これで本当に電車の速度が求められるのかは謎です。 田中が幼くなってしまったので、1の頃の話と言う事にしました。 |